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自動運転時代の都市と交通を考える IBS | IBS Annual Report 研究活動報告2017

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自動運転時代の都市と交通を考える

Impacts of Connected and Automated EV Systems on Urban Planning and Transport

太田勝敏

By Katsutoshi OHTA

1

はじめに: 自動運転車の技術的特性と交

通システムの革新

現在自動運転は、技術革新が目覚ましく、内燃機関 による現在の自動車に代わって、私たちの主要な移動 手段になるものと期待されている。車社会と言われる ように、自動車が日々の生活、産業活動と経済社会を 支え、都市を形成してきたことから、自動運転車(以 下、AV)がこれからの交通をどのように変え、新しい 都市や社会を導いていくかは、都市・交通プランナー にとっては今から議論し、対応すべき課題である。し かし、技術革新が急進中の現在、革新の実態とその方 向、もたらす広範な効果・影響については極めて不透 明で不確実である。本論では、自動車依存社会といわ れるような過度の自動車使用による現代社会の諸問題 について新しい自動運転技術がどのように対応できる か、都市・交通の視点から新たな交通手段の登場がもた らす可能性と期待、そしてそれが生み出す新たな課題 について検討したい。

自動運転車は電動で、ICT 技術や人工知能 AI により 常時外部と繋がっている“(頭脳・知能を持つ)考えるク ルマ”であり、これからの発展・進化の可能性が極めて 大きいことから、筆者は人類史におけるホモ・サピエン ス(現生人類)の出現になぞらえて、これを“オート・ サピエンス”の誕生としている(文献 1 , 2)。AV は、これ までの自動車社会を大きく変えるゲームチェンジャー である。半世紀以上前に、急進するモータリゼーショ ンが伝統的な市街地を覆いつくすことに脅威を覚えた 英国が、ブキャナン・レポート(1963 年)で自動車を “最愛の怪物(beloved monster)”としてその手なず け方を提案したように、AV への対応について今から検 討し対応することが重要である。

自動運転技術については、加速・操舵・制動の基本 的な運転者タスクとの関係で段階的に発達するとされ ており、最近は米国 SAE の 6 段階ベースでの認識が広

がっている(文献 3)。これは現状のレベル 0(自動化なし) からレベル 1(運転支援)、レベル 2(部分運転自動化) までは運転者が運転タスクの全部から一部を実施する 段階で、レベル 3(条件付き自動化)、レベル 4(高度自 動化)、レベル 5(完全自動化)は自動運転システムが全 ての運転タスクを実施する段階とされている。現在は 自動ブレーキなど安全運転支援技術を装備した車(レ ベル 1、一部レベル 2)が新車販売の半数近くになって おり、2020 年の東京オリンピック開催時でのレベル 3 の先行導入をめざした技術開発が進んでいる。技術開 発とその普及の見通しについては諸説があるが、レベ ル 5 の AV が一般化するにはかなりの年数がかかり、そ の間在来車と非完全 AV とが混在する期間は長く、また 完全 AV のみの利用は特定の地域・道路区間などと考え られる。以下の検討では、今後 30 〜 50 年程度を対象 に、レベル 0 からレベル 5 の様々な性能のクルマが混 在する状況として議論する。なお、レベル 5 のみが使 われる状況は、特定地域限定としての検討に留める。

AV 関連技術については、電動化・自動化・情報化が 基本技術であり、その社会的普及ではシェアリングが 重要と考える(文献 4)図表- 1参照)。以下ではそのよう な AV 技術を前提に、様々なレベルの AV が、共用公共 交通システムとして自家用 AV や在来の交通手段や非 AV と混在して、都市の交通システムが形成されると想 定する。以下の検討では、自動運転の意味を交通の意 義、機能から考え都市活動との文脈で私たちの生活、 くらしと生業といったライフスタイルへの影響、そし て経済・社会への影響を検討する。

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インフラの整備原則としてのブキャナン・レポートの考 え方の今日的意味などについて私論を紹介したい。

図表-1 自動運転関連技術要素と交通手段

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交通の意味とAVによる基本的影響・効果

交通は、人の意思による人や物の場所的(空間)移動 であり、経済学では多くの移動は派生需要であり、目 的地で行う活動に本源需要があるとして、交通の分析 を行なっている。このため移動に伴う時間や費用をで きるだけ小さくするよう消費者は行動すると仮定して いる。しかし、レジャーや散歩など移動自体を目的と した本源需要としての移動の存在、そして、派生需要 であっても移動中に行う活動は ICT 技術の進歩により 多様化して生産性や効用が高いものがあり、それらの 価値と需要への影響を考慮すべき状況となっている。

自動運転による効果として、無人運転のレベル4・5で は運転タスクは不要であり、移動サービス供給者(交通 事業者)の運転者コストがゼロとなり、また自家用車で は利用者は全て乗客として車内活動が可能となり、移動 中の効用が増す。また、レベル1・2、そしてレベル3で あっても、運転タスクの軽減により運転者の効用が増加 する。しかし、レベル3での自動運転から手動への移行 に伴う、新しいタスクの心理的負担や事故危険性の増加 など、コスト増加の可能性などは注意が必要である。

AV は運転タスクを無くすことで障がい者や高齢者、 子どもたち、そしてけがや病気などの健康上の理由で 一時的に運転が困難な人々に新たなモビリティを提供 し、自立的移動手段となる効果は大きい。しかし、派 生需要としての運転であっても運転を楽しむなどを評 価する人にとっては、効用の一部減少もあることに注 意が必要である。AV 移動サービスの利用者の効用は、

その費用負担とのバランスで決まるが、AV が普及する とすれば利用者が負担する総コストがその効用の価値 よりも小さいことを意味する。

ポイントは交通渋滞、事故、大気汚染、温暖化など これまでの自動車社会の諸課題の軽減になるか、そし て何か新しい社会問題を生じることにならないかとい う点である。これらについては別途一般的な検討をし た(文献 1 , 2 , 4)。これらは直接的な利用者が負担していな い外部費用、社会的費用にかかる課題であるが、電動 化により走行時の大気汚染や温暖化ガス排出問題は無 くなり、交通事故原因の 90 %近くを占めるとされる 運転時の認知・判断・操作に関わるヒューマン・エラー が、自動運転で回避できることになる。また、V 2 X な ど ICT 技術により、AV と他のクルマや歩行者などの他 の交通参加者とのつながりは交通安全だけでなく道路 などの交通インフラの効率的利用となることから、交 通渋滞の軽減になろう。例えば、英国交通省の研究で は、AV の普及レベルによるピーク時自動車交通流の 改善について、都市部と戦略的都市間幹線道路網に分 けてマイクロシミュレーションにより分析した結果、 都市部では 25 % といった低普及率だと平均遅れ時間 や旅行時間、そして時間信頼性での改善効果は大きい こと、また、幹線道路では低普及率だと交通流の悪化 も見られるが潜在的には 40 % 強と効果が大きいこと などを明らかにしており、興味深い(文献 5)。使用するエ ネルギーが石油から電力に代わり、再生エネルギーの 使用が進むことも社会的なメリットである。また、AV のシェアリングが一般的となれば、車両総数が少なく て済み、特に都市部でのインフラ整備ニーズが減少す る。このシェアリングの効果について、在来車と AV の 総走行量(台 km)が減少することから道路交通でも炭 酸ガス排出でも電動化、自動化の効果よりも大きいと されている(文献 6)

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しい都市において社会的意義は大きい。限られた公共 空間としての街路・駐車空間をクルマ、特に自家用車か ら解放して徒歩や自転車、バスなどの交通空間として、 さらには、遊び・緑などに変えることが可能となる。

旅客・貨物にかかわる交通事業者にとって、AV によ る人件費削減の経済効果は大きい。特に、宅配貨物の 増大などで運転手の確保が困難な状況であり、事業者 の期待は大きい。同時に、新しい AV 移動サービス市場 への適用・移行コスト、特に職業的運転者が多いバス・ タクシー事業や貨物輸送業などの業種転換と、その従 業員の新たな雇用の確保などの課題も大きい。また新 ビジネスの誕生が一方であるとしても、市場に任せる だけでいいのか、産業構造の転換に関わる社会的課題 である。この供給者サイドへの影響については様々な 議論があるが、従来の自動車メーカーは AV 生産者と して自動車製造事業者に徹するか、AV を活用した移動 サービスの運用事業者、そして MaaS といったマルチ モードの移動サービス全体を提供するプラットフォー ム事業者など新しいビジネスモデルへの変身などの岐 路にあるといわれている(文献 7)

在来車は 20 世紀のライフスタイルを形成した主要因 の一つとされているが、AV の誕生と進化の影響はどう であろうか。一般的には、生物としてのヒトの自然適 応能力が劣化し、人工物による地球資源の多消費と廃 棄物が自然の環境容量を超えて温暖化問題などを引き 起こしている現状からは、技術革新がもたらすこの潜 在的構造的課題は避けられない。人類としての叡智が 求められるとしか言えない状況である。AV により移動 の持つ障壁が減ることは、長期的には定住民社会から 遊牧民社会への移行もありうることになる。短期的に は AV での出張やレジャーの仕方の変化が予想される が、それぞれの国・地域の文化による人々の暮らし方は その社会的つながり、コミュニティの影響が大きく、 単に移動が容易になることだけで変化するものではな いが、留意すべき事項であり今後の検討課題である。

3

都市の発展における空間構造・都市形態

の変化と交通システムとの関係

これらの供給サイドの議論はここでは別として、都 市計画の文脈では、AV による新しい移動サービスによ る都市の変化が重要であることから、以下ではその影

響について短期と長期に分けて考えてみたい。5 〜 10 年程度の短期的な影響は、既存の市街地の基本的交通 インフラと土地利用を前提に、都市活動に及ぼす影響 である。AV のレベル 1・2 のものが普及し始め、安全 運転支援技術は在来車に適用される段階にある。わが 国では人口減少と高齢化・公共交通の撤退などで、交 通弱者や限界集落の増加が問題とされ対応が求められ ている。AV 関連技術で高齢ドライバーの安全性が高ま ることから、移動困難性に因る居住地から便利な拠点 への移住ニーズは軽減するであろう。また、在来車を 使ったライドシェアやオンデマンド交通サービスなど の新しい移動サービスが発展することも、同様の効果 をもたらすであろう。この意味で、現在進められてい る“賢い縮退”、コンパクト化の政策は、交通アクセス について日常生活での移動が短くなり、クルマの代わ りに徒歩・自転車で可能といった利点はあるが、より多 様な視点、健康や社会的つながり、コミュニティの共 創・維持など総合的な観点からの検討が重要となろう。 住宅、オフィスなどの新改築においては、それらの 新しい移動サービスの発展で自家用車保有・使用が減少 し駐車スペースの削減も始まり、敷地計画や建築デザ インの自由度が増し、建築空間の有効利用がはかれる であろう。関連する法制度としては、附置義務駐車場 制度は廃止して、市場に任せるなどが議論となろう。 また、現在空きビル、空き家、空き地が都市内の各地 に蔓延し、市街地はスポンジ化しており、それらの私 的な低利用空間が社会的には負利用空間となっている ことから、その社会的有効利用として緑地・防災空地な どに加えて AV 用電力生産・充電・整備・保管用地など としての利用も検討すべきであろう。

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も機能している例が多いように、使用する交通手段は 変わり沿道の施設や建物も変わっていくが、ハード・イ ンフラとしての道路は変わりにくいといった特徴がある。 交通の発達との関係では、徒歩をベースにした歴史 的市街地をコアとして鉄道、路面電車、自動車による 市街地が次々と重層的に積みあがって現在の都市が形 成されている。例えば、持続可能な都市と交通で先駆 的な著作がある Newman and Kenworthy は現在の 都市空間構造は図表- 2のようになっており、これは 徒歩系、公共交通系、自動車系の 3 層から構成される としている(文献 9)。また、持続可能な都市については 自動車交通を抑制してスプロールした郊外部に鉄道シ ステムのネットワークを張り巡らし小さい拠点(TOD 結節点)を多数分散配置した将来の都市像(Nodal/ Information City)を提案しており、興味深い(文献 10) AV の誕生と進化による新たな市街地の地層・レイ ヤーをこのようなレガシーの上にどうかぶせていくか が、都市計画の課題といえよう。人口増の場合、民間 の市場ベースを基調に都市計画的に管理し誘導してい くことが一般的である。大規模な計画的開発は、外周 部のグリーンフィールドでの新市街地整備と、既成市 街地のブラウンフィールドでの修復・再開発をベースに した、より積極的な都市計画的管理となる。また、人 口減少などによる都市縮退の場合も同様で、マイナス のレイヤーとしてランダムに薄く空洞化・低密度化と撤 退・再整備など局所的対応があり、市場ベースか政府の 積極的関与かの戦略的選択肢がある。今後それぞれの 都市で検討する基本的課題である。

ここで都市の発展と交通との関係についての知見を 振り返り、その基本戦略について検討する。人口から みた都市の発展は、自然増という内生的要因はあるが 産業革命以後は経済産業の発展、政治的要因などの外 生的要因による社会増が大きい。都市発展の主要因で ある交易条件は、地政学的な地理条件や都市間交通の 利便性に依存している。交通利便性は気象・気候、地形 (例:河川、港湾)等の自然的立地条件に加えて、交通

整備・管理政策によって改善できる。

このようなマクロ的都市発展を背景にした都市形態・ 都市空間構造の形成が、都市計画の主要課題である。 この文脈ではトムソンの都市交通基本戦略での大都市 類型化仮説が興味深い(文献 11、図表- 3参照)。彼は 1970 年代の世界各地の大都市の分析を基に、都市の

空間構造として、①自動車化戦略(ロサンゼルス、デト ロイト等)、②弱都心戦略(サンフランシスコ、ボスト ン、コペンハーゲン等)、③強都心戦略(東京、ニュー ヨーク、パリ等)、④低コスト戦略(ボゴタ、ラゴス、 コルカタ等)、⑤自動車抑制戦略(ロンドン、シンガ ポール、ストックホルム等)、の 5 タイプがあるとし ている。トムソンはこれらの基本戦略の決定要因とし て、Ⓐ地形・気象条件、Ⓑ相対的なアクセス性、Ⓒ開発 規制・計画、Ⓓ歴史、の 4 要因があるとしている。

都市・交通計画の文脈からは、Ⓐの自然条件とⒹの歴 史は背景条件として十分それらを考慮した上で、主体 的に政策対応が可能なものはⒷの交通条件とⒸの土地 利用・都市計画条件である。Ⓑの交通・アクセス性につ いては、自然地理的条件は交易や地政学的な比較優位 性から都市自体の発展に重要であるとともに、都市形 態にも大きな影響を持っている。また、交通インフラ とその利用・管理は、民間では困難で政府の役割が大 きいことから政策介入の余地が大きく、現実的な政策 でもある。この 5 タイプの鍵となる戦略要素は都心コ ア、副都心、サブセンターといった都市拠点の規模と 構成の考え方、そして大量輸送が可能で大規模都心に 有効な鉄軌道と面的サービスに向いた道路のいずれを 基幹交通システムとするか、といった相互に関連する 二つの選択肢群であると解釈できよう。AV は自動車技 術の革新であるが、既存の道路交通システムが発達し た先進国では、既存の道路などの社会インフラを活用 した漸進的導入が一般的となることから、このトムソン

図表-2 現在の自動車都市 -徒歩・公共交通・車の3タイプ混成

(5)

の発展類型・戦略をベースにした検討は有用である。 トムソンの仮説は 1970 年代でのスナップショット であり、筆者はそれらの異なるタイプの戦略がどのよ うにして生まれてきたか、動的なプロセスに意味があ ると考えてきた。このような視点からは、各都市の発 展期にレガシーとしての既存市街地に、その時点での 最新の交通技術をとり入れたインフラ整備で市街地を 拡大・再整備をしてきたことを示唆している。これらの 5 タイプのなかで、④の低コスト戦略は、開発途上国 では道路・鉄道のいずれにせよインフラ投資が財政的に 困難でバスや路面電車に依存せざるを得ない状態であ り、②の弱都心型は不安定なもので、政策により①の 完全自動車化型か③の強都心型に変化していく状態と 説明されていて、トムソンが考えた先進国での基本形 はそれ以外の①、③、⑤である。

③の東京は、明治以来の近代化と工業化で全国人口 が増加し、首都としての社会経済機能が集中し強化さ れる中で、増大する人口を鉄道沿線での住宅地開発で 対応して現在のタイプとなったといえる。また、①の ロサンゼルスは、戦後の発展は高速道路と自動車によ る低密度の郊外開発、そして民間による大型ショッピ ングセンターやエッジシティの開発など車社会として 知られているが、歴史的には戦前は路面電車が広く発 達した低コスト戦略に似た地域であった。⑤のロンド ンは、19 世紀の都市発展期に鉄道をベースに市街地が 形成され、戦後はグリーンベルトを設定し大都市圏外 で田園都市を計画して地域計画で人口増加を収容しよ うとしたが、自動車化が進み、ブキャナン・レポートに みられるように 1960 年代中頃からは自動車交通の抑 制に腐心している都市である。

トムソン仮説より半世紀が経過した現在、③の東

京、ニューヨーク、パリはモータリゼーションに対応 して外周部に環状高速道路など幹線道路網の整備に努 め、同時に都心では自動車交通の抑制につとめ、都心 アクセスは都市鉄道で確保しており、⑤の自動車制限 戦略をとるようになっている。一方、①の自動車化戦 略のロサンゼルスは、大規模な高速道路網整備にも関 わらず大気汚染問題や交通渋滞問題が解決できずに、 地下鉄・LRT・BRT といったマストラの整備も進める ようになっている。このように、先進国の大都市は中 心都市では自動車交通の抑制・適正化が共通テーマと なっているのが現状といえる。一方、開発途上国の都 市は、経済発展とともに都市化の勢いは増し、十分な 交通投資なしでの徒歩・自転車・パラトランジット(イ ンフォーマル交通サービス)ベースのスプロールが進ん でいるが、ボゴタやコルカタではマストラの整備が不 可欠とされ、その整備も進んでいる。また、ジャカル タなどアジアの大都市では、民間による計画的な自動 車ベースの大規模市街地形成もみられ、④の戦略の多 様化、またはこれらの 5 タイプとは異なるものが現れ ているとも考えられる(文献 12)。なお、④の低コスト戦略 は BRT や LRT の登場、AV でのラストマイル移動、デ マンド対応モビリティ手段など新たな交通選択肢が広 がるなかで、小規模拠点の分散配置による持続可能な 都市空間構造として、鉄軌道系のマストラが整備され ていない先進国の中規模都市、そして縮退する大都市 でも有用と考えられ、今後の検討分野である。

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既成市街地内の都心部や副都心部周辺で、インフラ老 朽化への対応と合わせた局所的再整備のなかで、AV が 導入されることになろう。むしろ、大幅な都市化が見 込まれている発展途上国の大都市部での新市街地整備 において、AV の全面的適用が進むであろう。AV ベー スの交通インフラが整備され、住宅・オフィスの建築、 人が集まる公共施設や商業施設も、人流用の駐停車ス ペースより物流施設が重視されるなど IoT 時代に合わ せたデザインとなろう。

ここで通信技術の革新から、途上国では固定電話か らの段階的な携帯電話への移行ではなく、蛙飛び的な 普及で経済社会の近代化が進んだ事例が参考となる。 この傾向を後押ししたのがマイクロクレジットなどの 経済支援体制であり、女性の市場参加が容易になった ことがある。当然、農村から市場への交通アクセスの 改善もそれなりにあったと推察される。このような先 進国の経緯をたどらない蛙飛び的な発展事例として、 交通分野では、快速バスシステム BRT が低コストの大 量輸送機関として多くの発展途上国で導入されている こと、また中国都市など大気汚染問題もあって、電気 自動車 EV の生産と普及、先端的なサイクルシェア・シ ステムの爆発的普及(自転車王国の復活)が進んでいる ことなどがある。また、ICT 技術によるタクシーなど の配車アプリを利用した移動サービスは、既に中国の 滴滴(Didi)が 400 都市以上でサービスを展開し、運転 者 1 , 500 万人・利用者 4 億人と、Uber/Lyft を超えた 世界最大の事業者となっているとのことである(日本経 済新聞、2017 . 4 . 7)。また、ジャカルタ、ホーチンミ ン・シティなどではバイク・タクシーでの配車アプリの 使用も始まっている。

4

AV交通に対応した道路交通システムの

整備:ブキャナン原則の再考

都市交通計画分野でこれまでの自動車交通への対応 の基本的な考え方とされているのが、英国政府の報告 書、ブキャナン・レポート(1963 年)での考え方であ る。この考え方では①道路の機能別階層化(都市の廊下 としての主要分散路から地先道路までの体系的道路整 備でアクセス性確保)、②居住環境地域の整備(都市の 部屋として通過交通がなく低速度での走行で居住環境 優先)、③居住環境とアクセス性のバランス(道路・沿

道施設への投資・コスト負担で両者の同時改善可能)の 3 点が提案された。この原則は広く受け入れられて新 市街地の整備に適用された。既成市街地での適用は、 ボンエルフ、ゾーン 30 などの交通静穏化という形でと り入れられたが、限定的な都市が多かった。このこと は居住環境よりもアクセス性、車の利便性を人々が優 先した結果とされている。電動化され、情報化され社 会的につながった未来の AV 交通社会でのブキャナン原 則の妥当性についてみると、レベル 5 の AV が普及した としても AV のみの市街地は限定され、多くの都市・地 域では在来車などの混在が一般的であろう。また AV、 在来車ともにシェアリングが一般化され人の移動での 道路交通の総量は減少するが、アマゾンなどの電子取 引による物流の増大が進むことから、AV 貨物車・貨物 用ドローンの専用交通路整備の検討も必要となろう。

このような中で①は、都市間交通や物流、そして都 市内の幹線系 AV 専用交通路と住宅地周りの生活道路な どの機能別階層化は必要であり、各階層にあった構造 規格と設計が求められる。交通運用・管理の高度化、効 率化、安全化で車両通行部と駐停車スペースの簡素化・ ダイエットが可能になり、徒歩・自転車や公共交通、そ して緑や修景の余地など公共空間が増えることになろ う。駐車施設については上述したように、AV シェアリ ングが普及すると住宅や施設での駐車場は大幅に削減 可能となり、乗降スペースを建築物近くの街路に適宜 配備し、既存の駐車場を改修して自動倉庫型の AV 保 管・充電・整備施設とすることになろう。

(7)

ロに向けて高齢者・歩行者・自転車事故の削減が重視さ れる現在、早急に対応すべき課題である(文献 14)

ブキャナン・レポートでの居住環境地域の設定は、地 域への出入を物理的に少数街路に限定することで実現 しようとしたもので、この点への住民の反対が多かっ た。AV 時代は情報技術で低速化することで居住環境を 守るもので、居住環境地域のバーチャル化といえる。 コミュニティの視点からは、他との差別化をはかる上 では目に見える何らかの境界が望ましいケースもあろ う。ここで注意すべき点は、ICT 技術による侵入規制 が容易になることで、セキュリティの視点から不適切 車を排除した居住区が都市内に一般化して、社会的格 差の助長や社会的分断につながらないかという点であ る。これはインテリジェント・ゲーテッド・コミュニ ティの課題といえる。

③の投資費用との関連では、AV 交通システムの開 発・導入の総費用と、その運用費用と便益とのバランス である。AV 車両、交通インフラなどの直接的な費用に 加えて、交通法規や免許制度、保険などの関連制度、 精密な地図、セキュリティ対策など様々なソフトイン フラの整備に、時間とコストが必要である。これらの 費用とその負担についての議論は始まった段階であ り、全貌は不明というのが現状である。しかし、現在 の自動車社会の諸課題に因る社会的費用の軽減は大き な便益であり、そのコストを上回ると考えられている。 以上の議論では十分触れなかった課題として、AV 導 入による誘発交通の可能性(新たな派生需要だけでな く、休憩・メールなど車内活動目的での利用も)、また送 迎・待機に伴う空車交通などによる総交通量(台km、台 時間)の増加、関連して自家用AV保有への転換がある。 AVの多くはシェアリングを前提としたが、その特性か ら所有者個人に合わせたデザインや車内仕様も可能であ り、ブランド化され、新しいステータス・シンボルとして の普及も想定され、今後の検討課題である。

5

展望と課題:未来のシナリオ

以上、AVがこれからの都市と交通に及ぼす影響につ いて、様々な観点から、体系的整理ができないままでは あるが、筆者の現在の理解を紹介した。繰り返しになる が AV はオート・サピエンスとも呼ぶべき革新的技術の 誕生であり、これから人類にとって有用な移動システ

ムに育て、進化させていくべきもので、その潜在的能 力は大きいが、適用の仕方によって危険性をはらんだ 技術でもある。現在技術自体の開発が進行中であり、 その社会的適用性など周辺環境の検討が始まった段階 であり、都市や市民の受容性をはじめ不確実性が大き い。その意味では本論は、「群盲、(虚)象を評す」の状 態での個人的な見解と期待(speculation)である。

AV はこれまでの内燃機関による自動車の交通事故・ 渋滞・大気汚染・温暖化ガス排出問題などを軽減し、 モビリティを改善するもので、新たなクルマ社会を創 り出すであろう。世界各都市のモータリゼーションの 展開をみると、それぞれの地域の社会文化的、また歴 史的文脈の中で多様な形態がある(文献 15)図表- 4

表- 5参照)。主要交通手段の分担率から自動車の役割 に注目して都市を類型化すると、先進国の都市の中で も公共交通型(東京)、徒歩・自転車型(アムステルダ ム、ビルバオ)、公共交通ベースのマルチモード型(モ スクワ、プラハ)、徒歩・自転車ベースのマルチモード 型(大阪)があり、必ずしも自家用車中心ではないこ と、一方途上国であっても、自家用車型(ホーチミン・ シティ、クアラルンプール)、自家用車ベースのマルチ モード型(バンコク、カイロ)と二輪車を含めて車社会 化していること、が注目される。AV が今後それぞれの 都市でどのような展開プロセスをたどるかは、目指す 都市ビジョンと都市計画など関連分野と連携した一体 的な政策的取り組み、そのリーダーシップと市民の主 体的参加次第であろう。

図表-4 主要交通手段による都市類型(2000年頃)

注 1) 交通手段分担率(%):S 1 -自家用車 , S 2 -公共交通 , S 3 -徒歩・自転車(S 1 +S 2 +S 3 = 100)

(8)

この意味で、プランナーの役割は望ましい都市の未 来像・ビジョンの段階から市民をはじめ関係者の参画に よる合意形成をはかり、計画を進め、適宜 PDCA サイ

クルで見直しながらその実現をはかり、共創していく ことであろう。

Decide and Act Together !

図表-5 主要な交通手段からみた都市交通発展パターン(イメージ)

参考文献

1) 太田勝敏:「自動運転が拓く明日の交通社会を考 える-オート・サピエンスの“素晴らしき新世 界”-」,交通工学,Vol. 50,No 2,pp. 8 - 14, 2015 .

2) 太田勝敏:「自動運転時代の交通とその社会」, 国際交通安全学会誌,Vol. 40,No 2,pp. 141 -147,2015 .

3) 鎌田実:「経済教室 自動運転の未来と課題 上」, 日本経済新聞,2017 . 4 . 8 .

4) 太田勝敏:「自動運転と交通まちづくり」,自動車 技術,Vol. 71,No. 1,pp. 16 - 22,2017 . 5) Atkins, Research on the Impacts of Connected

and Autonomous Vehicles on Traffic Flow. Department of Transport, 2016.

6) Lew Fulton, Jacob Matson and Dominique Meroux, Three Revolutions in Urban Transportation. UC Davis and ITDP. 2017.5. 7) Arthur D. Little, The Future of Automotive

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8) 小長谷一之,都市構造の変容-歴史と展望,『都市

構造と都市計画』,近畿都市学会編,古今書院, 2013 .

9) Peter Newman and Jeffrey Kenworthy, The End of Automobile Dependence. Island Press, 2015 .

10) N e w m a n a n d J e f f r e y K e n w o r t h y , Sustainability and Cities. Island Press, 1999 . 11) J.M. Thomson, Great Cities and Their Traic.

Victor Gollantz. 1977 .

12) 松行美帆子,他:「グローバル時代のアジア都市 論」,丸善出版、2016 .

13) 太田勝敏 他:『生活道路の交通安全と面的速度 マネジメント:次期交通安全基本計画の主要論 点から』,日本交通政策研究会,日交研シリーズ B- 146,2011 . 4 .

14) 太田勝敏:「ビジョンゼロと戦略的道路交通安全 対策を考える」,自動車技術,Vol. 71,No. 5, pp. 2 - 3,2017 .

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